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文科省職員が、ハーバード生に!? Who am I ? 留学で自分を再発見

海外留学で、「これまでにない経験をした」「仕事へ取り組む価値観が変わった」という職員は多くいます。

村越幸史さん(入省8年目(当時))もその1人。
原子力規制庁や文科省国際課でのグローバルな業務がきっかけとなり、現在、ハーバードケネディスクールに留学中の村越さん。一体そこでどんな経験をしているのでしょう?また、留学中の今だからこそ感じる文科省への想いについても、赤裸々な心中を聞いてみました!

インタビュアーは入省4年目の新宮さんと入省3年目の池田さんです(年次はインタビュー当時)。

村越さんの留学までの経緯について気になる方はこちら

留学のハードルはそこまで高くない?

-新宮 村越さんは若手の頃の仕事がきっかけで留学を志したということでしたが、入省時から海外留学というのも視野にはあったのでしょうか。そもそも留学制度があることは知っていましたか?

村越 国家公務員の人事院留学制度は学生の頃から知っていました。海外への漠然とした興味はありましたが、英語力含めて当時学生だった自分にとって、留学は遠い世界のことでした。

-新宮 留学制度を活用することの難しさについてはどう思われますか?

村越 文科省の事務系は分からないですが、技術系では留学を希望すれば、かなりの人数が行ける制度だと思います。英語は勿論1、2日では準備できませんが、きちんと準備すれば、求められるレベルも現実的だし、チャンスは多いと思います。また、1年間の期間になりますが、宇宙関係、原子力関係の留学制度もありますよね。私の同期も半数程が既に留学に行っています。

※人事院留学についてはこちら

世界中のハイレベル人材を輩出する大学

-新宮 現在留学されているハーバードケネディスクールとはどんな大学なのでしょうか?

村越 ハーバード大学の公共政策大学院で、世界中から「公共政策の仕事に携わりたい」「リーダーになりたい」と言う人が集まる大学院です。世界中で活躍するハイレベルな人達の多くがそこの出身です。以前文部科学大臣をお勤めいただいた林芳正参議院議員もハーバードケネディスクールの卒業生ですね。

※ハーバードケネディスクールの公式URLはこちら


-池田 トップレベルで活躍する人材を多く輩出する大学として有名なのですね。私の元上司もハーバードケネディスクールの卒業生だったのですが、在学中の知り合いが、その後とある国の大臣になって、属人的なコネクションになったと聞きました。

村越 そういったこともあるようですね。ただ、学生のときだと誰がそうなるかは分からないですが(笑)

-新宮 住み心地はどうでしょうか?

村越 ボストンに滞在していますが、綺麗な町で治安も良いです。冬は本当に寒いですが…。また、子育てもしやすい環境だと感じています。

キャンパス_子育て

(キャンパス内でお子さんと遊ぶ村越さん)

近所の風景

(ボストンの風景)

「文科省の役人」では無く、肩書のない個人として

-池田 留学での失敗談や挫折経験、そこから学んだことについて聞かせてください。

村越 最低限の英語はできるつもりでしたが、最初は言葉の壁に直面しました。議論に取り残されてしまうことも多く、人生で経験したことのないくらい落ち込みました。周りは励ましてくれるのですが、その優しさに頼らざるを得ない自分が情けなく感じました。自尊心の崩壊から回復していくプロセスは大変でしたが、自分の考え方を根底から見直す機会にもなりましたね。

-池田 やはり、最初の壁は英語だった訳ですね。自尊心の崩壊からの回復ということですが、言葉の壁以外にも、村越さんの価値観や自己肯定感を大きく揺るがすことがあったのでしょうか。

村越 はい。留学先では、私が「日本の役人である」ことは、周囲の同僚や先生に対して何ら直接的な価値を与えるものではありません。これまでの立場や肩書から離れ、1人の学生としてコミュニケーションを取る必要があるのですが、そこに言葉がうまく伝わらないということもあり、自信を失いました。

-池田 肩書が機能しない世界で、一度裸になる必要があったということですね。自信を失いつつも、そこからどのように立ち直っていったのでしょうか。

村越 書籍を読んだことがある方もいるかもしれませんが、ロナルド・ハイフェッツ教授のリーダーシップの授業では、自身の考え方を振り返り、他者からのフィードバックをもらう中で長所と短所を整理することができました。この授業では、リーダーシップと権威は別であるという前提のもとで、自身の立場からシステム全体が抱える課題を解決していくための戦略を学んでいくのですが、自分の考え方が権威主義的だと気づくことになりました。役所では、「○○課の係長」といった自分の立場から状況判断をして、組織の決定に沿って行動していくことは必要な事です。ただ、私の場合は、忙しさの中で、その前提としてあるはずの俯瞰的に政策を考える視点がおろそかになっていた部分もあったと思います。良く解釈すれば着実に仕事を進めるとも言えるかもしれないですが、前例や立場で守られた範囲を超えて行動することに臆病になっていたと自覚しました。留学生活では、よりどころとなる肩書がない中で試行錯誤せざるを得ず、自分はどう考えるのかに向き合えるようになっていったと感じます。

-池田 なるほど。それぞれに与えられた社会的な役割にとらわれ過ぎてしまうと、肩書を抜いた個人として考えることをおろそかにしてしまいがちということですね。我々若手職員も気づかずのうちに当てはまってしまいそうです。

村越 そうですね。例えば、行政官は立場の異なる関係者を取りまとめていくことが求められますが、Empathy(共感)する力が私には欠けていたと痛感しました。日本は米国と比較すると同質で権威主義的な社会だと思います。幸運なことに私自身はそのシステムの多数派として生きてきましたし、国家公務員としては公権力を行使する立場にいると思います。留学で少数派の立場や多様性を前提としたシステムに置かれることで、意見・立場の相違に対する想像力を育むことができましたし、こうした能力は、今後複雑化していく日本社会においても重要になると思っています。

本当の「共感力」とは

-池田 先ほど仰っていたEmpathy(共感)する力とはどのようなものなのか、もう少し教えて頂けますでしょうか。

村越 政策を作るためには意見の相違がある中で着地点を見出していくことが必要になりますが、その際に大なり小なり犠牲を強いられる方たちの立場を本当の意味で理解するのは非常に難しいことだと思います。例えば、政策の検討過程では有識者の意見を聞いたり、視察を通じて直接意見交換をするといった機会を設けると思います。こうしたプロセスを踏むことが、多様な立場に配慮し政策を進めていく現実的な解だと思いますし、行政官として私なりに共感したつもりにもなっていました。一方で、留学でマイノリティの立場に置かれてみると、弱い立場から意見を表明していくのは勇気がいることですし、多数派に響くメッセージを伝えるのってとても難しいことだと感じました。こうした経験を経て振り返ると、私自身はあくまで政府の立場や多数派からのものの見方を前提として、異なる意見に向き合っていなかったと反省しました。

-池田 今のお話は…なんだかすごく刺さりました。確固たる役割、特に多数派の環境に立った上での共感は本当の意味での共感にはならないんだろうなぁ(独り言)。そのためには、自分が持つ肩書といった価値感から一度思考を解き放たないといけませんね。

村越 霞が関に限らず、組織の中で立場を持つと、そのしがらみを超えて考えたり行動したりすることは大変です。リーダーシップの授業でも、多くのクラスメイトがその葛藤を抱えていました。まさに学生の方が向き合っている問いだと思いますが、目指すべきものを考え、そのために自身の取るべき行動を考えることが大切になっていきます。

-池田 私も「文科省○○課の池田」として考えてしまう場面がどうしてもあるように思います。村越さんは留学中、肩書にとらわれず一人の個人として考えることを強いられたことで、共感のあり方や自分自身を再発見したということですね。

村越 その通りです。

「自分に何ができるか」を

-新宮 ハーバードケネディスクールでは、具体的にどういったスキルが身についたのでしょうか。

村越 政策分析の手法や国際的な視点を身につけることができました。その上で、マネジメントやリーダーシップについて、自分の経験を振り返りながら学ぶことができたのが一番良かったと感じています。私は考え込んでしまう人間ですが、ケネディスクールの”Ask what you can do”(自分に何ができるのか問うてほしい)や”Step outside your comfort zone”(居心地のよい場所から外に踏み出せ)という文化の中で、行動することの大切さを学ぶことができました。

学生生活

(授業の風景。発表しているのが村越さん)

-新宮 留学後、文科省に戻ったらどのような仕事に携わっていきたいか、イメージはありますか?また、身につけたスキルをどう活かしたいですか?

村越 国際的に気候変動対策への関心が高まっていますが、留学での経験を活かし、日本の科学技術と国際社会が抱える課題を橋渡しする仕事をしていきたいと考えています。文科省が所管する幅広い研究開発分野を通じてもですが、将来的には在外公館や国際機関での勤務も経験したいと考えています。

-新宮 先ほどのお話に関連しますが、文科省に戻ってくると、やはり文科省の役人という肩書は結局ついて回ることになってしまいますが、仕事の仕方として意識したいことはあるでしょうか。

村越 異なる立場の意見を含めて俯瞰的に考えることは意識していきたいと思います。文科省は風通しが良い職場だと思いますし、責任ある立場にある人は自由闊達な意見を求めていると思います。そうはいっても、組織の中で自身の意見を表明していくのは胆力がいることなので、積極的に行動していきたいと考えています。

-池田 私も入省してまだ経験が少ないですが、確かに自由な発想で政策を進めていくことの難しさを感じることはあります。良くも悪くもですが、特に関係者が多岐にわたる仕事では、大きな変化を伴う政策は、検討から実行に移す過程で多くのハードルにぶつかる気がします。

村越 そうですね。行政官としては、そうしたハードルを単に避けるのではなく、何ができるかを追求していくことが大切だと思います。

いま改めて考える、文科官僚という選択肢

-池田 文科省を離れてみたからこそ分かる、文科省の良いところや課題は他にもありますか?最近では、官僚の働き方ややりがいについてのネガティブな報道も増えています。そういったイメージや口コミ、一部の実態も影響してか、国家公務員(総合職)を志望する人は減っているようです。国家公務員(総合職)という職業に対して何か思うことはありますか?率直なところを伺えればと思います。


村越 文科省を含めて、国家公務員の働き方や生産性について懐疑的な意見も多いと思います。これらには妥当な指摘もありますし、仕事のやりがいに関するものについてはネガティブキャンペーンのように感じる場合もあります。私がマネジメントを学んで感じるのは、文科省は官僚機構らしく、官僚機構としての課題を抱えているということです。同時に、海外企業、スタートアップなり組織を変えても、それぞれに課題があるということです。何をすべきかを考えて行動すれば、こうした課題と折り合いをつけながら前進する可能性が開けますし、そうでなければ構造的な問題にトラップされて終わってしまいます。私にとって文科省の良いところは、教育や科学技術という私が価値を置く分野を通じて、日本へ貢献することを目指していることです。このミッションに共感できるかどうかが、仕事をしていく上で大事だと思っています。決して楽な仕事ですというつもりはないですが、労働環境等を含めて敬遠するほどの場所ではないと思います。

文科省というキャリアを考えている方へのメッセージ

-新宮 それでは最後に、文科省や霞が関での仕事を考えている学生さん達に向けてメッセージをお願いします!

村越 国家公務員(総合職)という業種については、色んな情報が入ってくると思いますし、外からの情報をどう受け取るかは、それぞれの学生さん次第だと思いますが、まずは自分が何をやりたいのかということをしっかり考えてもらえれば一番いいんじゃないかなと思います。
また、私の好きな言葉に、スティーブ・ジョブズの“Connecting the dots”(点と点はつながる)があります。学生時代にこのスピーチを聞いた時には、世界トップレベルの大学への留学は別世界のことでした。ただ、自分が共感できることを探し、挑戦を続けることで、留学へと道が繋がりました。教育、科学技術、文化、スポーツ政策への関心があれば、皆さんが活躍するチャンスが文科省には沢山あります。公務員試験を含め楽な道のりではないですが、それも将来の糧になります。皆さんと文科省で一緒に働ける日を楽しみにしています。

“You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backward. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.”
(出典: https://news.stanford.edu/2005/06/14/jobs-061505/ )

記念撮影

(最後に3人でオンライン記念撮影をしました!)

以上、村越さんへのインタビューでした。
留学によって、日本では得られない経験をしたり、文科省の良さや課題をこれまで以上に客観的に捉えられるようになったりしたことが、率直な言葉で語られていたのがとても印象的でした。

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さて、文部科学省リクルートチームでは、文科省やその中で働く職員の魅力について、様々な角度から発信していきます。
近日中に新たな記事を投稿予定ですので、ぜひお楽しみに!